吾妻の民話そのA
岩櫃山のぶっぽうそう
その昔、吾妻太郎というお殿様が岩櫃城に居て、この地を治めておりました。
お殿様には美しい奥方があって、二人の間に男の子と女の子が生まれ仲良く暮らしていました。
考え深く、心の優しいお殿様は里の領民たちを慈しみ、暮らしやすいように橋を架けたり田畑を
開墾させたりしました。
吾妻の里は年毎に豊かになっていきました。
その頃、京の都の幕府は力を失い日本の隅々にまでは命令が行き届かなくなっていました。
それをよいことに、勝手な振る舞いをする領主が出てきました。
自分の領地の経営に力を注ぐより、豊かそうな国に目を付け襲って自分のものにしてしまうのです。
岩櫃城も北の国から攻め込まれ、幾日も籠城する戦いになりました。
城の中では、男ばかりか女や子供までが戦いに参加していました。
まだ年端もいかぬ、若君も大男の武者達と共に戦いました。奥方は姫様や大勢の女達と賄い方として
男達を助けました。
しかし、寝返るものがあり岩櫃城に敵が攻め込んできて遂に城を追われて、一族は散り散りになってしまいました。
姫を連れた奥方も、お殿様や若様と離ればなれになり岩櫃山を幾日もさまよいました。
寒さとひもじさの中で「夫よ、夫よ!!」と叫び続けました。
「夫よ、おっとょ、おっとょ・・・、」
その声はこだまして里まで聞こえました。
「おっとん オットン・・・」
そうして彷徨ううちに、奥方はとうとう鳥になってしまいました。
しかし、お城も里も敵に取られてしまったので、昼間は鳴くこともできません。
木々の緑も濃くなる初夏の、夜更けになると岩櫃山の奥深くから聞こえてくる「仏法僧」の声を聞くと、
「あれ、オットンがないてるょぉ..」
私の祖母はそう言って、オットンの昔話を聴かせてくれたものです。
ちなみに「ブッポウソウ」と鳴くのは、ミミズクの仲間のうち、コノハズク という鳥です。
このページのモデルをやってくれているミミズクくんは、この地方では他のフクロウの仲間と共に
「ほろすけ」と呼ばれています。
モデルのミミズクくんは農家の二階へ飛び込んで羽を痛めていたのを保護され、近所の家の小鳥小屋に
入れられました。
吾妻地方では、弱虫のことを ずくなし と言いますが、このミミズクくんは夜毎小鳥を一羽づつたいらげ
羽の傷をすっかり癒して、おなかも満たして一週間後に放されました。
ずくなし どころか いいずくーしてらぁー!!(よい度胸してる)